- 4月 17, 2025
食物アレルギーについて 〜歴史・検査・診断・治療・対応など総説〜
湘南辻堂こどもクリニックです。
今回は、「食物アレルギーへの対応」についてまとめてみました。
食物アレルギー診療の歴史
食物アレルギーという病気が知られるようになってきたのは、実はほんの最近で50年程度前のことです。1960年に日本人医師がIgE抗体の存在を突き止め、検査が注目されるようになってから、まずはアレルギー検査をして陽性になったものは全て除去しましょう、という考え方が主流の時期もありました。バランスの取れた栄養が必要な乳幼児期のお子さんに、本来食べられるものまで除去してしまうと、栄養不足を来たすことにもつながりかねません。
その後、多くの医師の尽力により食物アレルギーの診断法が確立され、現在では食物アレルギーの管理・治療の原則は「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」という考え方に変わってきました。
離乳食が始まる5ヵ月頃から少しずつ試しながら食べさせて、症状が出るものに関しては食べ進めるか、除去するか病院で相談しましょう。
食物アレルギーの予防
食物アレルギーの原因食物となりやすいものは、昔は食べ始める時期を遅くしましょうという指導をされることが多かったのですが、医学が発展し「成長するまで食べ控えると逆にアレルギー発症のリスクが上がる、上手く食べさせる方が予防効果がある」ということが近年わかってきました。
また、食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎など湿疹があり肌のバリア機能が弱っているお子さんで多いことが知られています。湿疹ができやすいお子さんは、お肌がツルツルで良い状態を維持できるように、受診することが大切です。
食物アレルギー検査
食物アレルギーの検査では、血液検査(IgE抗体)、皮膚プリックテスト、食物負荷試験などが用いられます。
- 血液検査
血液検査で分かるIgE数値は万能ではなく、「食物アレルギーの可能性・確率」を見るものなので、現代のアレルギー診療の位置付けとしては必須ではありません。血液検査の値がわかっても、どれくらい食べられるのか、いつになったら食べられるのかは分からないからです。
IgE抗体が高くても、食べて症状が無ければ、その食べ物は食べ続けても問題はありません。
また、IgE検査が陰性であることは必ずしも原因であることを否定する根拠にはなりません。例えば、食物アレルギーの一種である「新生児ー乳児消化管アレルギー」の赤ちゃんは、IgE検査をしても全く上昇がないけれど、ミルクなどを飲んだら激しく嘔吐をすることで有名です。
日常の食事の時にメモをして、症状の出現と関連する食物を探ることが一番大切です。
また、アレルギー採血は量が多く必要で、小さいお子さんの採血は難しいので、必要以上の検査は、お子さんの負担になりますのでお断りすることもあります。
- 皮膚プリックテスト
アレルゲン(食材、薬剤、試薬など)を少量皮膚に乗せて、そこにプリック針という小さい針で刺してアレルゲンを皮膚の中に入れ、15分後に出現した赤みの大きさを測定します。
プリックテストは⽪膚を傷つける程度によっては、刺激反応が⽣じやすくなります。出⾎しないように検査する技術が必要です。また、準備に⼿間がかかることや、アナフィラキシーを引き起こす可能性もあり、救急対応ができる施設での実施が望ましい検査です。

- 食物負荷試験
アレルギーが確定しているかもしくは疑われる食品を複数回に分けて摂取し、症状が出現するかどうかを確認する検査です。
食物経口負荷試験の目的は大きく3つあります。
①本当にその食材で症状がでるか確定診断する
②症状が出たことが明らかだがどのくらいの量なら安全に食べることができるかを確認する
③学校生活での解除を目指して、日常生活で通常摂取する目標量が食べられるようになっているかどうかを確認する
目標量を設定するためには、詳細な病歴が必要となります。疑われる食品を最近どのくらい食べているのか、完全除去していたが偶然気が付かずに食べてしまった(誤食)時に症状が出なかった、などの病歴が重要な情報となります。
食物アレルギー治療(経口減感作療法)
明らかに原因となっている食物は除去(食べないようにする)することが多いのですが、子供の成長の過程で消化管機能が成熟して改善する場合も多く、できるだけ食べられる食材が増えるよう、鶏卵・牛乳・小麦・ピーナッツは経口減感作療法が取り入れられることがあります。
「食べて治す」という経口減感作療法が世に広く浸透したのは2010年頃からですので、まだ一般的には知らない方も多いかもしれません。
軽症な方は、少量ずつ自宅で食べていただく場合もありますが、怖くてとても食べさせられないというご家庭も多くあり、その場合は病院で食物負荷試験を行っていただくこともあります。
重症な方は血液検査の結果を確認したうえで(IgEの値の数字で、食物経口負荷試験陽性になる確率を予想します)、入院食物負荷試験を行ってから食べる量を決めます。その後自宅で、できれば毎日食べていただき、症状が無いことを確認しながら、徐々に食べる量を増やしていきます。
日常生活で症状が出ないことが確認されたら、学校や外食などの制限を解除していきます。
アナフィラキシー
アナフィラキシーショックが起きたことがあるお子さんにおいては、エピペンを携帯することと、周囲の人にもよく理解してもらうことも大切です。
エピペンは、アナフィラキシーがあらわれたときに使用し、医師の治療を受けるまでの間、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤(自己投与が可能なアドレナリン製剤)です。
あくまでも補助治療剤なので、アナフィラキシーを根本的に治療するものではありません。エピペン注射後は直ちに医師による診療を受ける必要があります。

生活管理指導表の「診断根拠、除去根拠」の捉え方
生活管理指導表とは、食物アレルギーがあるお子さんで、保育施設や小学校などで除去食対応が必要な際に病院から発行されるものです。アレルギー疾患は成長とともに症状が変化しやすい疾患であるため、学校生活管理指導表は毎年更新し提出します。集団生活の場で安全に食事をとるために、保護者と現状を確認・相談しながら記入します。成長とともにそれまで食べられなかったものが食べられるようになることもあり、相談するキッカケになるという意味でも大切です。
「明らかな症状の既往」は、診断根拠として信頼性が高く、検査を行う必要は必ずしもありません。特に血液検査について詳細は先に述べたとおりですが、確定診断の根拠にはならないので必須ではないことに注意が必要です。毎年血液検査を義務付けられてきたお子さんは、すっかり病院嫌い、血液検査をされると思って泣いてしまうこともあり、不要な検査はしないよう、保護者の方と保育園の先生と相談することも多くあります。
食物アレルギーはたくさんの研究が行われている分野で、これからも新しい発見が多くあると思います。院長も日本アレルギー学会専門医として、より良い診療、対応ができる努力を、これからも続けていきたいと思います。