- 12月 10, 2025
インフルエンザウイルス感染症について小児科医が詳しく解説
湘南辻堂こどもクリニックです。
毎年、10月頃から徐々に増え、年末にかけて流行を迎えるインフルエンザ。
この時期は寒さから風邪をひく方が増えますし、インフルエンザウイルスワクチン接種もあり、全国的に病院は混雑しがちです。
インフルエンザの検査・治療には、タイミングが大切なので、今後のご受診の目安として参考になればと思い、今回ブログにまとめておきたいと思います。
<インフルエンザウイルスとは>
A型、B型、C型の3種類ありますが、ヒトには主にA型とB型が感染します。ウイルスの持つタンパク質の種類によって、さらに細かく分類されます。A型ではH1N1と、H3N2の2種類が問題になりやすいです。一般的な風邪に比べると重症化しやすく、肺炎や脳症を起こすことがありとっても怖いウイルスです。2025年12月現在の流行の主体であるH3は特に吐き気などの胃腸症状が強い方が多い印象です。
<感染経路>
くしゃみ、咳の中にウイルスが含まれており、それが目や鼻の粘膜にくっつくことで感染します。咳やくしゃみは、1〜2m程度飛ぶと言われています。新型コロナウイルス感染症で世の中が大騒ぎ、ソーシャルディスタンスをとっていた時期にはインフルエンザの流行は見られませんでしたので、新型コロナウイルス感染対策として行っていたマスク、手洗い、3密を避けるなどの対策は、インフルエンザにも有効と言えるでしょう。
<潜伏期間>
1〜4日程度(平均2日)です。保育園や幼稚園、小学校、あるいは家族が続々と発症することが多く、その感染力の高さには毎年驚かされます。
<症状>
38度以上の発熱、頭痛、悪寒、発汗、筋肉痛・関節痛(節々が痛い)が突然現れることが多いです。せき、鼻水、喉の痛みなども伴うことが多いです。また、吐き気、下痢、腹痛を伴うことも多いです。
中には肺炎や脳症などの重い合併症が現れ、入院治療を必要とする方や死亡される方もいます。これをインフルエンザの重症化といいます。特に基礎疾患のある小児や高齢の方では重症化する可能性が高いと考えられています。インフルエンザで最も重い合併症がインフルエンザ脳症です。無治療では10人中3人が命を落とし、後遺症も約25%の子どもに見られる重篤な疾患です。インフルエンザ発症同日か翌日に脳炎・脳症を発症することが多く、診断すらつかないうちに死亡される方もいらっしゃる怖い病気です。一番の予防はワクチンです。
明らかな意識障害(開眼しない、痛み刺激で反応しないなど)がみられたら速やかに救急車で受診することが大切ですが、インフルエンザは一過性の異常行動を起こすこともあり、1時間程度観察して改善するようなら脳症ではなく、様子見をしても大丈夫なことが多いです。
過去に報告のあった異常行動の例:
- 両親がわからない、目の前の人がだれかを認識できない、そばにいるのに「ママいない」と話す
- 自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物ではないものと区別できない
- ろれつが回らない
- 幻覚・幻聴
- 外に飛び出す、飛び降りる
- 他人に危害を与える行動をとる
- 突然歌う、おびえる、笑う、泣く
<診断>
周囲の流行や症状からインフルエンザの可能性を考えます。
当院での検査方法はいくつかありますが、一般的なのは抗原検査(鼻のぐりぐり)です。当院では今年から、鼻水で検査結果が比較的正確に出る抗原検査も導入しましたので、どうしても怖くて鼻のぐりぐりができないお子さんで、鼻水をかんで出せるお子さんは、こちらもご案内しています。
検査のタイミングがとっても大事で、発熱から12時間以内ですと陽性となり診断がつくのは10人中3人程度ととっても少ないです。24時間未満で10人中7人程度、24時間以上経過すると、ほぼ全員がきちんと診断がつきます。
また、対象年齢に縛りはありますが、喉をカメラで撮影してAI判定するNODOCAという検査や、他の感染症とあわせて調べられるPCR検査(検体は鼻のぐりぐりでとります)もあります。NODOCAとPCR検査は、発症から経過時間が短くても、比較的正確に診断がつきます。
特に鼻のぐりぐりは、大人も子供も苦手な方が多い痛い検査です。保険適応では経過中1回しか検査が認められませんので、発熱間もない検査は行わない医療機関も多いです。
また、昨今では市販の検査キットでも正確に診断がつくことが多いので、どうしても早いタイミングでも検査しておきたい場合や、連休中で混雑している休日診療所に行くのはためらわれる場合はご自宅で行って頂くのも良いかと思います。
<治療>
インフルエンザウイルスは、体内で感染後8時間でウイルスが100個、24時間後に10000個以上に爆発的に増殖することが知られています。発症から48時間以内に抗インフルエンザ薬を使用することで、この増殖を弱め、解熱を早め、重症化を予防することができます。重症化しやすい方、医師が必要と判断された方には48時間経過しても処方されることがあります。一方で、診断のタイミングが遅かったり、苦くて飲めない、うまく吸えないなどで体にお薬が入らなかった方は、自然に自力で治るのを待つことになります(お薬は必須ではない)。
・タミフル(一般名 オセルタミビル):生後2週間の赤ちゃんから大人まで飲める昔から使われてきた実績のある、ベーシックな飲み薬です。5日間朝晩2回内服します。粉は苦くて飲みにくいのですが、少量のオレンジジュースやスポーツドリンクに混ぜて飲む、ゼリーに包む(直接ベロに薬が当たらないように包むのがコツ)、チョコアイスに混ぜるなどすると飲みやすいです。副作用で嘔吐することが多いですが、食後に飲むことで副作用が軽減されます。体重が37.5kg以上になると、カプセルが処方できます。妊婦さんにも安全です。
・ゾフルーザ(一般名 バロキサビルマボキシル):比較的新しい飲み薬で、安全性や効果に対する裏付け・使用実績はまだ集積中です。1回飲みきりタイプです。1回飲むだけで治療が完了するため、その簡便さから好まれています。一方で、1回飲みきりなので、内服に失敗すると再投与できないデメリットがあります。効果の出方では肺炎や中耳炎の合併症が起きにくいこと、副作用の嘔吐がでにくいことも知られています。これまで錠剤しかありませんでしたが、2025年には粉薬も発売されました。一方で、変異ウイルスの発生に関する報告もあり、小児科学会から注意喚起と使用指針が毎年更新されならが出ており、2025年現在では、5歳未満は積極的には推奨されない、6〜11歳では慎重投与とされています。
・リレンザ(一般名 ザナミビル):5日間朝晩2回吸うタイプの吸入薬。抗インフルエンザ薬の中で最も罹病期間が短くなるという報告があります。粉っぽさを感じにくく咳き込みにくいので、投薬に失敗することがほとんどないお薬です。小学生以上で内服が苦手な子、吐き気で薬を吐いてしまいそうな子にお薦めしています。
・イナビル(一般名 ラニナミビル):1回吸いきりタイプです。1回吸うだけで治療が完了するため、その簡便さから好まれている印象です。粉っぽくて、咳き込んでしまいうまく吸えない方がいる印象です。吸入に失敗すると再投与できないデメリットがあります。
**検査のタイミングと、治療のタイミングから考えますと、発熱から24時間前後経過した時点で受診するのが最もお薦めです**
<登校・登園停止基準>
学校保健安全法により、「発症した日を0日目として、発症後5日を経過し、かつ熱が下がった後2日(幼児では3日)を経過」したら幼稚園・保育園・学校に行くことができます。本人は元気になっていても、人にうつしてしまうので、お出かけも控えていただき、自宅で療養することをお願いします。小児科でインフルエンザの診断を受けた後、熱が下がって元気になったが登園できない期間があるので、その間に以前から気になっていた症状だけ見てもらいに皮膚科に行く、眼科に行く、鼻がひどいので耳鼻科に行くなど他院を受診する方も多くお見かけしますが、病院受診の際には、周囲へ感染拡大しないように、インフルエンザの診断を受けていることを必ず申告しましょう。
<予防>
インフルエンザワクチンは、発症予防効果と重症化予防効果があり、学校の欠席日数を減らす効果が確認されています。先に述べたようにインフルエンザ脳症はインフルエンザの診断が下される前に発症して死亡に至ることもあり、その予防としてワクチンが有効です。
ワクチンには2種類あり、長年使われてきた注射の不活化ワクチン、2024年から使用可能となった点鼻の生ワクチンがあります。これに関しては別途ブログを書きましたので、ご覧下さい。
注射ワクチンは、毎年厚生労働省の検討委員会にて、流行するインフルエンザウイルスの種類を予想して、議論された結果、製造する種類が決定されます。国内メーカーでは、デンカ、ビケン、KMBなどが製造しており、流通バランスは年により変わります。他社メーカーであっても、予防接種効果に支障はなく、副反応の発生にも変化はありませんので、子供は2回接種しますが、1回目と2回目で違うメーカーでも問題ありません。
<抗インフルエンザ薬予防投与>
家族にインフルエンザに罹患した方がいる場合などで、インフルエンザの予防をするは、マスク、手洗いが最も有効で、基本的にやるべきことです。
重症化リスクのある方などでインフルエンザウイルス患者さんと接触した方などでは、タミフルの予防投与などを行うことがありますので、ご相談ください。
<最後に一言>
インフルエンザでも典型的な経過とならない場合もありますし、インフルエンザを疑うようなつらさを感じて受診した結果、新型コロナウイルスだったという方も多く見受けられます。
体調に不安がある際には、医療機関を受診していただくことをお勧めいたします。
